2025年7月20日に行われた参議院選挙は、事前予測を上回る投票率となった。総務省の速報によれば、全国の投票率は58.51%。前回(2022年)の52.05%を6.46ポイント上回る高水準であり、特に若年層の動きが目を引いた。

この背景には、これまで政治から距離を置いてきた無党派層、なかでも10代から30代の有権者が静かに行動を起こし始めたという事実がある。従来、政治的無関心の象徴とされてきた彼らに、いったい何が起きていたのか――その鍵は、SNSにあった。

可視化された「投票する人たち」

今選挙では、X(旧Twitter)、TikTok、Instagram、YouTubeなどを通じて、「投票に行こう」と呼びかける投稿が相次いだ。政党や候補者のアカウントのみならず、インフルエンサーや一般ユーザーによる発信も活発化。ある調査によれば、選挙期間中の関連投稿数は約2,360万件に達し、2022年の約4.6倍にまで膨れ上がったという。

なかでも注目されたのは、投票済証の投稿や「#選挙行った」などのハッシュタグ。自身の政治的スタンスを押しつけるのではなく、ただ“投票に行った”という事実を共有する行為が、じわじわと共鳴を呼んだ。そこには、政党の支持というよりも、「行かなければ取り残される」「あの人も行っているから、自分も」という、ゆるやかな連帯感が漂っていた。

拡散されたのは“演説”より“共感”

選挙戦終盤、多くの動画がSNS上で拡散されたが、必ずしも政策論争が中心ではなかった。むしろ、候補者の人間味や熱量が感じられるスピーチや、街頭での対話の様子、応援演説の切り抜きといった「人」が伝わる映像に反応が集まった。

特に、参政党や国民民主党、日本保守党といった新興・中堅勢力の候補者が発信した動画が若年層に届いた例は多い。「こういう言葉を聞きたかった」「言いたかったことを代わりに代弁してくれた」といったコメントが、数万単位の“いいね”とともに拡散された。

YouTubeやTikTokでは、政党による公式アカウント運用も進み、各党が「選ばれる候補」以前に「見つけてもらえる候補」としての努力を重ねていたのも印象的だ。

診断と共感が後押しした一票

もう一つ、今回の選挙で特徴的だったのが、「自分に合う政党・候補者がわからない」という無党派層向けに提供されたマッチングツールの浸透だ。NPO団体による「JAPAN CHOICE」などのオンライン診断コンテンツは、選挙公示後に100万人以上が利用したとされる。

「自分が何を大事にしているのか」「誰がそれに近いのか」を可視化できるこの仕組みは、政治を“誰かのもの”から“自分ごと”へと引き寄せる効果を発揮した。

加えて、その診断結果をSNSでシェアする文化が定着しつつあり、「自分はこの政党と近かった」と投稿することが、投票への軽やかな踏み出しとなった。選挙を語ることが気負わずにできるようになった、そんな時代の空気が、無党派層の背中を押したといえる。

「何となく投票した」ではなく「投票している自分を肯定できた」

2025年の選挙は、SNSが生んだ感情の共有と、「行動している他者」の可視化が、無党派層に静かな波紋を広げた選挙だった。

もちろん、すべての人が深い政策理解や候補者分析をしたうえで一票を投じたわけではない。だが、「誰かの投稿がきっかけで気になった」「あの人が動いたから自分も」というマインドが、結果として投票所へと足を運ばせた。その一歩は、これまでの“無関心”とは異なる、はじまりの一歩だったのかもしれない。