過去の失敗、失われた時間――しかし、決して「もう手遅れ」ではありません。
むしろ、世界中が“本物”を求める時代だからこそ、日本の技術とものづくり精神が再び脚光を浴びる可能性があります。

今、私たちが「何を選び、どう動くか」で、日本がもう一度世界のトップに立つ未来は十分にあり得ます。

そして、今この瞬間の選択は、遠い未来――30年後の日本で生きる人々にもつながっています。
30年後の日本人が、かつての私たち(=現代人)の決断や行動をどう評価するのか。
今この時代に生きる私たちが、もし「ここで踏みとどまり、本質に向き合った選択」を重ねていけば、未来から見て“あの時代は転機だった”と語られる日が必ず来るはずです。

この記事では、過去から現在、そして未来への“つながり”を意識しながら――「メイドインジャパン再生戦略」を徹底的にシミュレーションし、今を生きるすべての人へ未来への選択肢を投げかけます。

失われた30年の「構造的課題」――なぜ日本の現場は追い込まれたのか

バブル崩壊後の日本は、「失われた30年」とも言われる停滞の時代を経験しました。
その最大の要因のひとつが、株主至上主義の浸透と、短期的な効率やグローバル競争に過剰適応した経営判断です。

1990年代以降、国内市場よりも「世界基準」や「コスト競争」を最優先する空気が強まり、多くの大手メーカーが海外生産やリストラ、下請けの切り捨てといった構造改革を断行しました。
この流れは“改革”として称賛される一方で、現場力の低下、技術者の流出、職人文化の空洞化など、長期的には日本の基盤をむしばみました。

また、株主や投資家からの短期的な利益要求が経営層に強い影響を及ぼすようになり、“数字”や“シェア”ばかりが優先される経営が常態化。
「現場の声」「社会的責任」「長期の育成」といった、かつての日本型経営の強みは徐々に影を潜めていきます。

そして時を同じくして、海外メーカーの台頭や市場の自由化、規制緩和の波も重なり、「安さ」「効率」の土俵での消耗戦に日本全体が巻き込まれていきました。

この結果、現場力・技術・人材・地域経済の連鎖的な弱体化が進み、「気がつけば“世界の工場”でも“イノベーション大国”でもない日本」に追い込まれています。

今、私たちはこの30年の“構造的な課題”と向き合い、本質的な転換点を迎えているのです。
ここから何を学び、どう未来へつなげていくか――それこそが「再生戦略」の出発点となります。

“株主至上主義”を超えるために――新しい経営の軸

過去30年、日本企業の多くは「株主価値の最大化」を至上命題に掲げ、グローバル市場の論理に合わせて経営を行ってきました。
四半期ごとの利益・成長率、株価の上下動が経営層の評価指標となり、長期的な企業価値や社会的責任よりも、短期的な成果が重視される傾向が強まったのです。

しかし、世界の潮流は確実に変わりつつあります。
欧米でも「短期利益よりもサステナビリティ」「社会・地域・従業員を大切にする経営」への転換が加速し、多様なステークホルダーの価値を尊重する“新しい資本主義”が模索され始めています。

今、求められているのは「株主利益=すべて」ではなく、現場の声・技術者の誇り・顧客満足・地域との共存・環境配慮など、多様な価値をバランスよく経営に組み込むことです。
“現場力”や“人づくり”を経営の真ん中に据え、短期的な数値だけでなく、長期的なブランド力や社会貢献、従業員の成長と幸せを重視する発想へとシフトする必要があります。

実際、近年のグローバル企業では「ESG経営」「人的資本経営」「サステナビリティレポート」などが急速に広まり、株主のためだけでなく、社会全体のための経営モデルが“成長の新たな基準”となりつつあります。

これは、かつての日本型経営が持っていた“長期主義”“現場主義”“人間尊重”といったDNAを、現代的にアップデートして復活させるチャンスでもあります。

“株主至上主義”から脱却し、「未来の社会全体に価値を還元する経営」へ――。
その第一歩を日本から踏み出すことこそが、再生のカギになるのです。

世界と日本の“新しい経営”先進事例

例えば欧州の家電大手フィリップスは、ESG経営や循環型ビジネス(サーキュラーエコノミー)に早くから取り組み、長寿命設計・リペア部品提供・リース事業などを通じて「社会的責任と収益性の両立」を実現しています。
アメリカのパタゴニアも、“株主第一”から“地球第一”へと経営の軸を転換し、環境配慮型の製品・サプライチェーン透明化・従業員重視でグローバルブランド価値を高めています。

国内でも、老舗中小企業から大手まで「人づくり」「現場主義」を軸に再成長を遂げる事例が増えています。
たとえば愛知県のデンソーは、現場改善活動と多能工育成を両輪に、IoT・AIを活用した新しいモノづくり現場のモデルを発信。
また、長野県のセイコーエプソンは、地元雇用・地域共生・人材育成への投資を続けることで、長期的な技術革新と従業員満足度の両立を目指しています。

“現場力”と“共創”で動き出す、これからの日本型経営アクション

  • 現場・技術者重視の経営会議や意志決定プロセスの導入(数字だけでなく、現場の声・知恵・経験を経営に反映)
  • 短期利益より長期的な人材投資・教育の強化(新卒だけでなく中途・現場経験者のリスキリングや技能継承も)
  • ESG・SDGs・人的資本経営の具体的目標と開示(企業の社会的責任・未来への約束を対外的にも示す)
  • 取引先や地域社会・大学など外部と“共創”しながら産業エコシステムを育てる(単なる下請けではなく、対等なパートナーシップ・イノベーション推進)
  • 従業員の幸福度・働きがいを経営のKPIに組み込む(エンゲージメント・ダイバーシティ・ウェルビーイングの重視)

こうしたアクションは、一企業だけでなく産業界全体・地域社会・消費者を巻き込んでこそ最大限の効果を発揮します。
“現場力”を軸にした新しい日本型経営の可能性は、まさに今、動き始めているのです。

現場・技術者・地域から始まる再生戦略

日本再生のカギは、上からの“号令”だけでなく、現場・技術者・地域社会からの自発的な挑戦や連携にあります。
30年前、日本の強みは「現場力」「職人の技」「町工場の柔軟性」など、“目に見えない資産”の積み重ねでした。今こそ、この原点に立ち返り、各地域や企業が主役となって自らの強みを磨き、共に価値を創り上げていく時代が来ています。

技術者・技能者の誇りと挑戦――“現場発イノベーション”の再構築

技術者や現場の知恵・経験を経営の中心に据え直し、「改善」「新製品」「生産技術」の現場発イノベーションを強力に後押しする文化を復活させましょう。
ベテランから若手への技能継承、現場改善活動、オープンイノベーション拠点の設置など――こうした地道な積み重ねこそ、長期的な競争力と差別化の源泉になります。

“地域連携”で生まれる新しい産業エコシステム

地域ごとに異なる歴史や伝統、技術資産を活かし、地元企業・大学・自治体・消費者が一体となった産業エコシステムを築くことができます。
たとえば地域クラスタや先進技術の社会実装モデル、地産地消型ものづくりプラットフォーム、地場産業のブランド化支援など、地方発の独自イノベーションが日本全体を底上げする時代へ。

中小企業・町工場が再び“イノベーションの担い手”に

ものづくり大国・日本の屋台骨は、今も昔も中小企業や町工場です。最新のITやデジタル技術を取り入れつつも、現場力・職人技・柔軟な発想を生かして大手にはできないきめ細やかなサービスや高付加価値製品を生み出す力があります。

金属加工、組み立て、設計開発、3Dプリント、IoT製造、部品供給など、多様な分野で地域中小企業同士が協業し、“日本型サプライチェーン”の復活と新生につなげていきましょう。

“未来世代”への投資と人材育成

高専・専門学校・大学と企業・現場が一体となった人材育成――「手に職」を持ち、現場で鍛えられる若者が憧れられる社会――を再び築く必要があります。
学校教育と現場OJT、地域企業とのインターンシップ連携、リスキリングや再教育プログラムの充実など、未来への投資を惜しまない社会インフラが日本再生の土台となるのです。

“現場”が動けば日本が変わる――。
その一歩を現場・技術者・地域社会から踏み出すことで、メイドインジャパンの再生は必ず現実のものとなります。

未来への選択――今、なにを決断するか

私たちは今、歴史の分岐点に立っています。
これまでの延長線上にとどまるのか、それとも新しい価値観と戦略で「メイドインジャパン再生」の道を歩むのか――未来は、いまここでの“選択”にかかっています。

ここで改めて考えてみてください。もし30年後の日本人が、今の私たちの選択や行動を見つめたとき、何を語るでしょうか?
「あのとき大人たちが勇気を持って動いてくれたから、今の日本がある」と感謝される未来を残せるのか、それとも「なぜあのとき何もしなかったのか」と後悔される社会を残してしまうのか――。

“緩やかな衰退”か、再生への挑戦か――未来を左右する分岐点

現状の政治や社会を見ていると、まるで“ゆっくりと死に向かっている”かのような閉塞感と危機感が漂っています。
具体的な行動や変革を先送りし、問題の本質に向き合わないまま、なんとなく現状維持を続ける――そんな今の空気のままでは、30年後の日本は、本当に中国の一部かそれに等しい存在になってしまうかもしれません。

世界は待ってはくれません。経済でも技術でも、主導権を握る国や企業は次々と変わり、現状維持は“緩やかな衰退”でしかありません。
日本社会全体が「本質的な転換」と「勇気ある決断」をしなければ、未来は自動的に明るくなるわけではない――この危機感を、いま一度私たち自身が受け止めるべき時です

現場の声、地域の知恵、技術者の誇り、消費者の意識、そして経営の軸。それらをもう一度つなぎ直し、短期的な数字や効率だけでなく、長期的な社会価値・人間らしさ・持続可能性を重視する道を選び直すタイミングです。

“いま”から変えられる未来――私たちにできる選択

具体的には――
・現場や技術者のアイデアを経営や商品開発にもっと反映する
・地域や学校、企業が一体となって未来世代の育成に本気で投資する
・“安さ”より“本物”を選ぶ消費スタイルを応援し、社会に根付かせる
・短期の株価よりも長期的な信頼・幸福度・社会貢献を重視した経営や制度設計を後押しする
こうした“選択”を重ねることが、やがて日本全体の未来を塗り替えていきます。

では株主至上主義・グローバル市場と“どう付き合っていくのか”

もちろん、現実の経済はグローバルな資本市場や株主の論理を無視できません。ですが、“メイドインジャパン”の再生には、これらの仕組みとうまく付き合いながら「自国らしさ」「現場力」「長期価値創造」を同時に追求することが重要です。

  1. 株主と経営・現場・社会の“対話と共創”を増やす単なる「短期利益」だけでなく、「長期的な企業価値」「現場力」「社会貢献」も経営指標としてKPI化し、株主にもその価値を見える化する。
    年次報告書・株主総会でESG(環境・社会・ガバナンス)や人的資本、現場力への投資の意義を積極的に開示し、株主に支持を広げる。
  2. “選ばれる株主”をつくる、応援される企業をめざす近年は「長期保有型の機関投資家」や「社会貢献を重視するESG投資家」も増加中。企業として「どんな株主と歩みたいか」を示し、そうした投資家に選ばれる姿勢を取る。
    株主還元と同時に、従業員・地域・取引先への価値還元の実績をアピール。
  3. グローバル競争は「自国の強み・らしさ」で挑む価格競争や大量生産の土俵ではなく、日本企業独自の技術力・現場力・サービス品質・安全性で差別化。
    サステナビリティ、伝統技術、クラフトマンシップ、地域ブランドなど「海外勢に模倣できない軸」でグローバル市場と向き合う。
  4. 経営の透明性と説明責任を徹底し“信頼の輪”を拡げる利益や成長率だけでなく、「何を大切にして経営しているか」「現場・社会への責任」を社内外にしっかり説明し、株主・従業員・社会の信頼を獲得する。
  5. 「株主資本主義か現場主義か」“二項対立”を超えたハイブリッド経営どちらか一方を否定するのではなく、長期視点の株主も巻き込みながら「現場・人材・社会」への投資を同時に進める“日本型ハイブリッド経営”を追求する。

こうした現実的なアプローチを積み重ねることで、日本は世界の資本市場とも共存しながら、自国の現場力と社会価値を高めていく道を選べるはずです。

政府・金融機関・社会全体の“共創型支援”で企業活性化を

こうした「現場力」と「社会価値創造」を両立するためには、企業自身の努力だけでなく、政府や金融機関、社会全体の仕組みも不可欠です。

  • 長期投資・人的資本への税制優遇や助成金――短期利益ではなく「人づくり・技術投資・現場イノベーション」に資金が回る税制改革や補助金。
  • 地銀や地域金融による“顔の見える融資”・ファンド設立――大手だけでなく現場型企業への支援を評価基準に。
  • ESG経営・サステナブル経営企業への重点投資――グリーンボンド発行支援やESG評価の見える化。
  • 産学官金連携や地域産業クラスター推進――オープンイノベーションや町工場連携のための助成・プラットフォーム提供。
  • 社会人のリスキリング・現場型DX推進――大手IT化ではなく現場からのIoT・自動化を徹底支援。
  • 社内起業・現場発ベンチャー育成制度――挑戦する現場を後押しする仕組みを公的にも設ける。

企業の自助努力と“共創型の社会的支援”が組み合わさることで、日本全体のイノベーションと活力は最大化されるのです。

眠る2,000兆円を“未来投資”に――思い切った政策転換を

現在、日本国内には約2,000兆円の個人金融資産が存在し、その半分以上が預金や現金のまま“眠った資金”となっています。
この膨大な資金が、未来の産業・人材・技術イノベーションに本気で回り始めれば、日本は再び世界の主役に返り咲くポテンシャルを持っています。

しかし、従来型の小さな優遇策や預金金利の変動だけでは、人々のマインドや資金の流れは大きく変わりません。
だからこそ、「未来への投資」に限定した長期保有金融商品に対して、相続税をゼロ、あるいは大幅減税といった大胆な政策が必要です。

長期保有型金融商品への相続税ゼロ特例――“未来への投資文化”創造へ

たとえば、現場力や社会価値創造に取り組む企業を対象に、長期保有専用の金融商品(ファンドや株式等)を設計し、この商品に限り相続税をゼロ、または大幅減税する仕組みを導入することも検討できます。

欧州の長期投資優遇税制や日本の事業承継税制のように、厳格な保有条件や投資用途を定めて運用すれば、「単なる節税」ではなく、「日本の未来への投資」を促進する画期的な制度となり得ます。

これにより、短期的な資産運用を目的とする資本流入ではなく、“未来世代のために企業と社会を支える資本”が着実に積み上がっていくのです。

単なる金融テクニックとしての節税ではなく、「未来世代に価値を託す」国民運動として資金を動かす――。こうした思い切ったインセンティブこそが、日本の新しい投資文化の礎となるでしょう。

30年後の日本から「いま」の私たちに問いかけてみましょう――
「あなたは、どんな未来をつくる選択をしますか?」

“再生”へのエールと社会への問いかけ

ここまで、日本の家電・ものづくり大国が歩んできた道と、その教訓、そしてこれからの再生戦略について考えてきました。
株主至上主義、グローバル競争、短期的な効率や数字重視の経営――これらが日本の強みを徐々に奪っていった一方で、「現場力」「長期視点」「未来への投資」こそが新たな競争力の源泉となりうることも見えてきました。

「眠る2,000兆円を未来投資に」――思い切った政策転換や、企業・社会・金融機関の新たな連携によって、日本にはまだ大きな可能性と希望が残されています。

もちろん、どれも一朝一夕で実現できることではありません。
しかし、今この瞬間の“選択”と“行動”の積み重ねが、30年後の日本を変える第一歩です。

あなた自身は、どんな未来に“価値”を託したいですか?
「何も変わらない」と嘆くのではなく、「ここからなら変えられる」と信じて、小さくてもできるアクションから始めてみてください。

そして、願わくば――。
30年後の私たち自身が、2025年を振り返ったとき、もう一度「あの時こうしておけば…」とIFのストーリーを語らなくてもすむように。
今この瞬間から“選び直す”ことで、未来の日本が「誇りをもって歩んできた道」と自信を持って語れる社会になることを、心から願っています。

もう「もしも」ではなく、「ここから」を。
私たち自身が未来の歴史をつくる、その第一歩を、いま。