2025年7月の第27回参議院議員通常選挙(投開票日7月20日)では、SNS上で選挙関連の投稿が爆発的に増加しました。公示直後から投票日前までの約2週間で約2,360万件もの投稿が確認され、第26回(2022年)比で1日あたり約4.64倍(364%増)と急増しています。有権者の関心は「減税」「消費税」といった経済政策や、「外国人問題」「移民」など社会問題にも集中し、SNS上で頻出ワードとなりました。若者層の参加を促す呼びかけや、新しい選挙運動の試みも相次ぎ、SNSは文字通り選挙戦の“主戦場”となりました。以下、主要プラットフォーム別に、当該期間に多用・拡散されたハッシュタグ上位とその特徴をまとめます。

X

Xでは投稿量・拡散力とも突出しており、リポスト(リツイート)が投稿全体の約89%を占めるなど、話題の急拡散が顕著でした。選挙期間中、全国共通の話題タグから政党・候補者固有のタグまで幅広く飛び交いました。特に、投票日当日前後は出口調査や投票率に関する投稿が急増し、また若者への投票呼びかけ新興政党の躍進に関するタグも目立ちました。以下はX上で多用された主なハッシュタグです。

ハッシュタグ(X) 特徴・投稿傾向 (2025/7/1〜7/21)
#参院選2025 「2025年参院選」全般の統一タグ。
全国各地の選挙情報や投票状況、候補者応援・当落予想まで幅広い投稿が集まりました。
#出口調査 投票締切後に急増。
「○○候補当確!」「△△氏落選か?」といった開票速報への反応や各メディアの出口調査結果共有が、このタグ付きで一気に拡散しました。
#投票率 各地の投票率速報に関心集中。
「○○県は前回比アップ!」「若者の投票率伸びている模様」等の声が多数。地域別の投票率比較や推移分析もリアルタイムで行われました。
#投票に行こう 著名人・インフルエンサー発信で拡散。
「みんなで投票に行こう!」という呼びかけ投稿が芸能人らにより次々発信され、共感リポストが急増。若年層にも広く届き、「投票促進ムーブメント」に発展しました。
#比例代表 比例投票先を巡る議論タグ。
「どの政党に入れるか迷う…」という有権者の投稿や政党ごとの政策比較、支持を訴える声が集まりました。各党の比例候補や政策論点に関する討論も活発でした。
#参政党 ネット発信力が際立った新興政党タグ。
熱心な支持者層による動画拡散や演説共有が相次ぎ、「他党にないスタイルが面白い」と注目度急上昇。ネット世論での存在感が大きく、このタグが頻繁にトレンド入りしました。
#石破辞めるな 与党党首に対する異例の擁護タグ。
与党自民党が大敗した直後、一部支持者が「石破総理よ辞めないで」という趣旨で投稿しトレンド化。逆風下でも現職総理の続投を求める珍しい盛り上がりを見せました。
#手取りを増やす夏 若年層向けスローガンが話題に。
野党・国民民主党が掲げたキャッチコピーで、社会保険料引下げなど「所得アップ」を訴えるものです。党代表自らハッシュタグ投稿を呼びかけ、共感した有権者が次々参加するプチキャンペーンとなりました(「手取りを増やす」公約は若者世代に強く響き、ネット上で大きな支持を集めたとも報じられました)。

※この他、#自民党#立憲民主党#日本維新の会#公明党#日本共産党など主要政党名のタグも多数使われました。特に与野党の公式アカウントや支持者は投稿に党名ハッシュタグを付けて情報発信し、党ごとの話題集約を図る動きが見られました。また政見放送や討論会に関連しては、放送局や番組ごとに固有タグ(例:「#○○討論」)が設定されましたが、ネット上では短尺動画や要点書き起こしの拡散が中心で、タグ自体が長時間トレンド入りするケースは限定的でした。

TikTok

TikTokではショート動画による選挙PR合戦が繰り広げられ、主要政党9党が公式アカウントを開設して若者・無党派層への訴求を強化しました。エンタメ主体の空間に政治コンテンツが流れる意外性もあってか反響は大きく、「バズる」選挙戦術として注目されました。TikTok上では他のSNS発の話題も取り入れつつ、動画特有の流行が展開しました。以下はTikTokで多用・拡散された主なハッシュタグです。

ハッシュタグ(TikTok) 特徴・投稿傾向 (2025/7/1〜7/21)
#参院選2025 参院選関連動画の基本タグ。
候補者の街頭演説ダイジェストや政見放送の名場面、投票日当日の様子など、多様な選挙コンテンツにこのタグが付与されました。テレビ報道の短縮版や有権者のリアクション動画にも頻出。
#選挙へ行こう 投票呼びかけチャレンジ風ハッシュタグ。
有名TikTokerや芸能人が「選挙に行こう!」と呼びかける短動画を投稿し、いいねや共有が拡大。投票済み証明書を掲示する動画や友人同士で投票を誘い合う内容もあり、若者の政治参加ムーブメントを後押ししました。
#政治 政治系コンテンツ全般に広く使用。
政策解説やニュース解説、街頭インタビュー企画などで付けられ、アルゴリズム上「政治」カテゴリにリーチさせる狙い。例えば「あなたの推し政党はどこ?」と題した街頭インタビュー動画では
#政治 と共に
#自民党#国民民主党
など政党名タグが付けられ、視聴者のコメント議論が白熱しました。
#自民党 (ほか政党名タグ) 政党公式・支持者が活用。
自民党をはじめ主要政党はTikTok動画の説明文に党名ハッシュタグを挿入。各党の公約紹介や候補者メッセージ動画がタグ付きで投稿されました。再生回数を伸ばすため、複数の党名や話題タグを併記するケースもあり、ユーザーの関心に合わせたハッシュタグ戦略が見られました。
#推し政党 若者の推し活になぞらえたユニークタグ。
好きな政党(=推し政党)を宣言する形で、10~20代が推し政党への期待や推す理由を語る動画が登場。「○○党推しです!」といった軽妙な内容で、コメント欄でも推し政党について盛り上がりました。従来の政治支持表明をポップカルチャー風に表現した例です。

TikTokでは総じて、「若者目線」「笑いの要素」「わかりやすさ」がバズる3要素と分析されています。実際、維新の会・吉村洋文代表がサラリーマンに扮して政策を語るコミカル動画を投稿すると「親近感が湧く」と評判になり、短期間で何万回も再生されるヒットとなりました。このように政策メッセージをエンタメ化したコンテンツが人気を博し、「政治って意外と面白い」と感じる若者が増えたとの指摘もあります。一方で、TikTokは中国系プラットフォームであることからデータ漏洩リスクへの懸念も一部で議論され、SNS活用のメリット・デメリット双方が意識された選挙戦でした。

YouTube

YouTubeでは候補者演説のライブ配信政見放送の切り抜き動画が大量にアップされ、再生回数を伸ばしました。選挙系ユーチューバーと称される人々が各候補の演説や討論会へと自ら足を運び、動画を撮影、演説のフル動画や盛り上がっているシーンをショート動画化し、数百万再生のバズ動画も登場しています。政党側も公式チャンネルで連日ライブ配信を行い、有権者との双方向コミュニケーションを図りました。こうした動きからSNSに強い政党の方が票を伸ばしていることは間違いなく、次回の衆院議員選挙では更に広がりを見せる可能性がある。
しかしながら切り取りによるレッテル貼りやデマの拡散も併せて予想されるため各党対策が必須となる。

YouTubeのハッシュタグ機能はXほど重要視されませんが、選挙関連動画ではいくつかのタグが活用されました。以下はYouTubeで確認された主なハッシュタグです。

ハッシュタグ(YouTube) 特徴・投稿傾向
(2025/7/1〜7/21)
#参院選2025 選挙動画の共通タグ。
ニュース番組の公式チャンネルや政治系YouTuberが動画タイトルや説明欄に付与。開票速報ライブ配信や候補者インタビュー動画など幅広いコンテンツがこのタグで検索・一覧できました。
#政見放送 政見放送動画のタグ。
各党・候補者の政見放送をアーカイブした動画や名場面集に付与されました。中でもユニークな政見放送はSNSで話題になり、その切り抜き動画がこのタグ付きで急上昇する現象も。視聴者のコメント欄で内容が議論されるなど、政見放送がネット上でも注目されました。
#街頭演説 街頭演説シーンの共有タグ。
応援演説や候補者本人の街角演説を撮影した動画に付与。一部有権者が自撮りで演説の様子をアップし、「生で聞いて感動した!」といった反応とともに拡散。地方の小規模集会もこのタグで全国に共有され、ローカルな訴えが思わぬ注目を浴びる例もありました。
#開票速報 開票ライブ配信のタグ。
テレビ局やネットメディア各社が開票特番を同時配信した際に使用。開票結果をリアルタイムで伝えるストリームにはこのタグが付き、多くの視聴者がチャット欄で当落の行方を見守りました。視聴者はテレビを持たなくてもYouTubeで速報を追えたとの声もあります。
#立憲ライブ 政党公式企画のタグ。
野党・立憲民主党が選挙期間中にYouTubeライブで実施した対談番組シリーズのタグです(X上で質問募集も実施)。ゲストに党幹部や候補者を迎え、生配信とSNS投稿を連動させる試みで、固定ファンだけでなく他党支持者からの視聴も集めました。

このようにYouTubeでは、長尺動画による深掘り解説からショート動画による速報拡散まで多層的な情報共有が行われました。特に公式討論会・演説会のネット配信は大きな反響を呼びました。例えば日本記者クラブ主催の党首討論会はニコニコ生放送やYouTubeで同時中継され、SNS上でも議論が飛び交いました。またN高等学校の生徒が主催したオンライン討論会では10代が政治家と直接議論を交わし、その模様がリアルタイムに拡散されて「新しい選挙文化」として称賛される場面もありました。総じてYouTubeは、公式情報から市民目線の解説まで幅広い動画コンテンツを通じて有権者の理解を深め、SNS世論の醸成に寄与したと言えます。

Facebook

Facebookでは、他のプラットフォームに比べて中高年層・地元支持層による利用が目立ちました。拡散力はXやTikTokほどではないものの、選挙情報の告知・共有に使われています。政党や候補者の公式ページは演説会の日程、政策ビラ、ライブ配信予告などを投稿し、有権者との接点を築きました。またハッシュタグ文化も健在で、以下のようなタグが確認されています。

ハッシュタグ(Facebook) 特徴・投稿傾向
(2025/7/1〜7/21)
#参議院選挙2025 総称タグ。
各党支部や新聞社のFacebook投稿で広く使われました。選挙に関する一般的なお知らせ投稿(例:「参院選2025マッチングサイト公開」等)にも付与され、話題を一覧できます。
#〇〇選挙区 (例: #参院選岡山) 地域別タグ。
各候補者陣営は地元向けに「#参院選○○」「#○○選挙区」などのタグを使用。例えば岡山選挙区の国友候補は「#参院選岡山」タグ付きで地元有権者へ決意を訴えました。地域限定の情報もこのタグで検索・共有されています。
#〇〇と政治を動かす17日間 候補者オリジナルスローガン。
Facebookでは文字数制限が緩いことを活かし、候補者が独自の長文ハッシュタグを掲げる例もありました。例:国友さよ候補の「#くにともさよと政治を動かす17日間」は17日間の選挙戦への決意を表したもので、支持者が投稿にこのタグを付けて応援メッセージを送る動きも見られました。
#zero選挙 メディア主導企画タグ。
民放各局もSNSと連携し、Facebook上で参加型企画を展開しました。日本テレビ「news
zero」では #zero選挙
を付けて「考え方診断」ツールへの誘導投稿を行い、若者の投票先選びを支援する試みが話題に。テレビ番組視聴者だけでなくSNSフォロワーにもリーチするクロス媒体戦略でした。
#〇〇ライブ ライブ配信連動タグ。
選挙期間中、政治家によるライブ配信や討論番組が増えました。立憲民主党は「#立憲ライブ」のタグでFacebookライブをシリーズ配信(同タグでX投稿の質問も募集)。支持者はタグ付きコメントで番組に参加し、双方向のコミュニケーションが実現しました。

Facebook全体では、選挙当日の投票報告(「投票してきました」)や家族・友人への呼びかけ投稿も散見されました。これらには明確な統一タグは無いものの、「いいね!」やシェアで緩やかに拡散し、身近な繋がりで投票を促す効果を生んでいます。総じてFacebookはクローズドな人間関係に根差した情報共有に強く、派手なトレンド入りは少ないものの、各陣営が地道に活用したプラットフォームと言えます。

Threads

Meta社のThreads(スレッズ)は2025年時点で日本でもサービスが開始されていましたが、選挙期間中の利用は限定的でした。一部の政治家や有権者が開設したものの、ハッシュタグ機能や検索機能の未成熟もあって話題の拡散力は小さく、主要な選挙ハッシュタグがThreads上でトレンド化する動きはほとんど見られませんでした。

とはいえ、ごく一部では選挙関連の投稿もありました。例えば投票日には「#参院選2025」や「#投票完了」と付けて投票報告をするユーザーもいました。また、一部の政治通ユーザーはThreads上で国政に関する議論を試みましたが、投稿閲覧範囲の狭さゆえ大きな盛り上がりには至っていません。加えて、Threadsでは政治的ハッシュタグの検閲疑惑も取り沙汰されました。あるユーザーは#二階50億返せよ」(政治資金スキャンダルを批判する趣旨のタグ)というハッシュタグを投稿しようとしたところブロックされたと主張し、「言論統制ではないか」と懸念を示しました。Meta側の意図は不明ですが、こうした事例も相まって、選挙期間中のThreadsは慎重な空気が漂っていたと言えます。

もっとも、Threads自体のユーザー数が当時まだ限定的であったため、参院選の情報収集・発信の主戦場にはなりませんでした。主要候補者・政党による公式発信は見受けられず、ユーザー有志による感想戦的な書き込みが散発的に流れる程度に留まりました。今後日本での利用者が増え機能が充実すれば、選挙SNS空間におけるThreadsの役割も変化する可能性がありますが、2025年参院選に関して言えば「影の薄い存在」だったと言えるでしょう。

おわりに

2025年参院選は、SNSが選挙戦を映す鏡であることを強く印象付けました。特にXでは膨大な投稿が飛び交い、主要トレンドから市井の声までが可視化されました。TikTokやYouTubeでは動画を通じたわかりやすい政策発信が若年層を取り込み、Facebookでは地縁・血縁コミュニティを通じた草の根の広がりが見られました。従来「政治離れ」と言われた若者世代も、「SNS発の選挙ムーブメント」に触発され「選挙ってちょっと面白いかも」と感じ始めたとの声もあります。実際、今回の投票率は58.5%と15年ぶり高水準に上昇し、10代・20代の投票率も上向いたことが確認されています。

もっとも、SNS選挙には課題も残ります。デマ情報の拡散や過激な誹謗中傷への対策、プラットフォームごとのユーザー層偏りによる「見える世界」の差異など、健全な民主的議論を維持するための取り組みが求められます。しかし総じて、2025年の参院選はポジティブで革新的なオンライン政治参加の可能性を示したと言えるでしょう。有権者一人ひとりがSNSを通じて政治に関心を寄せ、意見を表明し、行動につなげていく——その流れは今後も強まっていくと予想されます。SNS時代ならではの民主主義の形に注目しつつ、次の国政選挙でも今回生まれた新たな潮流が継続・発展することが期待されます。

Sources: