2025年7月20日に投開票が行われた参議院選挙は、SNSが選挙空間の中心となった点で特筆に値する。だがその裏で、ネット空間に突如として走った“異変”が、有権者の言論環境に影を落とす事態へと発展した。
フォロワー数万規模のアカウントが次々とBANに
7月15日前後、X(旧Twitter)上でフォロワー数千〜数十万規模を持つ複数の参政党支持者アカウントが凍結(BAN)される出来事が相次いだ。一部ユーザーからは「政党支持を理由に凍結されたのでは」との声も上がり、言論封殺やプラットフォームの恣意的な運用を懸念する声が拡がった。
運営側からの公式な説明はなく、凍結理由は不明なままだが、凍結対象となったアカウント群は共通して、参政党支持の投稿を活発に行っていたことが報告されている。
発端は「スプートニク取材」――候補者の対応が波紋を広げる
事の発端となったのは、参政党のさや候補(東京選挙区)がロシア国営通信社「スプートニク」の取材を受けたことだった。この出演に対し、「外国勢力のプロパガンダに利用されているのでは」といった懸念がネット上や一部メディアで噴出。
これを受けて、党代表の神谷宗幣氏は「出演は党職員が許可したものであり、代表である自身には事前共有されていなかった」と説明。問題を重く見た神谷氏は、関係職員に辞職を勧告したと発表した。
この対応は火消しの意図があったと見られる一方で、「参政党は外国メディアとのつながりを持っているのではないか」とのレッテル貼りが一部で根強く残る結果となった。
「ロシア製ボットが躍進の原動力」説が拡散
さらに追い打ちをかけたのが、山本一郎氏がnoteに掲載した記事だった。
同記事では、X上で参政党支持を訴える投稿の一部が「ロシア由来のボットアカウント」によって拡散されている可能性があると主張。記事は瞬く間にSNS上で話題となり、一部メディアでも取り上げられた。
こうした論調に対し、保守系有権者からは「単なる支持者の声を“外国の影響”と決めつけるのは不当」「国政選挙を前にした意図的なネガティブキャンペーンではないか」とする批判の声も多く上がった。
政治家たちの“参政党たたき”と見られた発言
この流れに呼応するように、複数の政治家が参政党を名指しして発言したことで、さらに議論はヒートアップする。
国民民主党の玉木雄一郎代表は7月15日、Xにおいて前述のnoteを引用し「我が党についても言及があるが、外国勢力からの選挙への介入工作は国会でも問題視してきたので、まずは調べてみたい。
「今回の参院選では明らかにロシア製ボットの運営者は国民民主党を見捨て、参政党を使って反社会的な言動を煽っている作戦に出ているように見えます。」とし、問題提起を行った。
この発言に対しては、「証拠も不明なまま他党をロシアの手先扱いするのは危険」との批判も多く、“参政党たたきに便乗した”という見方が保守系SNSユーザーを中心に拡がった。
一部ではこのようなエビデンスの不確かな情報を拡散したことによる中立的であった一部支持者の離反が起きたという向きもある。
また、元デジタル担当大臣の平井卓也氏は、堀江貴文氏の「ホリエモンチャンネル」に出演した際、SNS上の情報制御について次のように述べています。
「かなり消し込みを行っているが、追いつかない状況だ」
この発言は、政府・行政側がSNSプラットフォームに対し投稿削除や凍結などの介入を積極的に行っていることを示唆するもので、特に参政党支持者アカウントの凍結問題との関連で注目されています。しかし、具体的な削除基準や対象投稿に関する詳細な説明はないため、言論統制や行政圧力とのバランスについて懸念の声も根強く残っています。このコメントは、言論空間における透明性と監視の必要性を再認識させるものです。
他の政党関係者や評論家もこの件に触れ、「影響力のある保守系SNS空間に対する統制的な動きだ」として疑義を呈している。
本来、政治家に求められるべき姿勢とは、自らの主張や政策、政党としての立場を公の場に堂々と提示し、国民に選択してもらうことにある。
その一方で、自分たちへの反対意見や他党の支持者の声を「通報」や「排除」の対象とするような行為は、民主主義の根幹を揺るがすものであり、決してあってはならない。
SNSと民主主義の境界で揺れる
Xアカウント凍結、スプートニク報道、ロシアボット疑惑――これらの連鎖は、2025年参院選という民主的プロセスの只中で起きた。背景には、SNSが選挙戦における“主戦場”となり、世論形成に強い影響を及ぼすようになった現代的な構造がある。
一方で、外国勢力の関与や誤情報対策の必要性も確かに存在する。だが、それが十分な説明や根拠なく「アカウント凍結」や「ロシア疑惑」として表出するのであれば、結果的に民主主義の信頼基盤そのものを揺るがしかねない。
有権者がどの政党を支持し、どんな情報に触れ、どのように意見を表明するか。その自由をどう守りながら、健全な選挙と情報環境を維持していくのか――2025年のこの一連の出来事は、日本の民主主義にとって、避けて通れない問いを投げかけている。
一方米国で浮上した「オバマ大統領がロシア・ゲートに関与」という疑惑
さらに、2025年7月下旬には、アメリカでも「ロシア・ゲート(Russiagate)」の捏造疑惑が再び燃え上がりました。米国情報機関長官トゥルシー・ガバード氏が、オバマ政権高官たち(元CIA長官ジョン・ブレナン、元FBI長官ジェームズ・コミー、元国家情報長官ジェームズ・クラッパーら)が2016年大統領選挙時に意図的に偽情報を流し、トランプ氏当選後を見据えて調査を操作したと主張。「国家転覆に準じる陰謀」「反逆罪に匹敵する裏工作」といった強い表現を用いて調査終了後に証拠を司法省に送付すると表明しました。
この動きを受け、司法省は特別チーム(strike
force)を設置して正式な調査に着手すると発表。また、上院共和党議員リンゼイ・グラハム氏やジョン・コーニン氏らが特別顧問による徹底聴取を要求し、疑惑解明の必要性を訴えました。
一方で、元CIA関係者や民主党サイドは、今回の告発に反対しています。Mueller報告書の作成に参加したSusan
Miller氏は、「これらは政治的動機による誇張であり、証拠は極めて薄弱」と一蹴しました。また、事前のバイパーティザン調査(2017年・2020年の上下両院インテリジェンス調査報告など)は、ロシアによる介入は認めながらも、「投票結果操作に至る証拠はない」と結論づけています。オバマ陣営自身も「こうした疑惑は根拠薄弱で奇異なもの」として正式に否定声明を出しました。
これらの動きは、「2016年のロシア・ゲート疑惑が再び選挙戦略の道具として利用されているのでは」という批判を呼んでいます。
SNSと「情報操作疑惑」の共通構造
日本の参政党支持者アカウント凍結問題と、アメリカにおけるオバマ政権とロシアゲートをめぐる再燃した疑惑――。一見すると無関係に見えるこれらの事象には、SNSを舞台とした「政治的言論空間の揺らぎ」という共通した構造が浮かび上がってくる。
いずれも、透明な根拠の提示を欠いたまま、「外国勢力」あるいは「工作活動」といったレッテルが一方的に貼られ、それが政治的攻撃の手段として機能しているという点で重なる。背景には、SNSが世論形成の主戦場となり、従来のメディアよりも早く、広く、強く情報が拡散される現代的な状況がある。
こうした環境下では、ひとたび疑惑が投げかけられれば、公式な反論や事実確認が追いつかないまま情報が拡散し、あたかも「事実」であるかのように定着してしまうリスクがある。結果として、根拠の不確かな疑惑が先行し、その後になって説明が試みられるという、「疑惑の拡散
→ 説得力の希薄化 → 矛盾批判」の負のサイクルが繰り返される。
この構図は、日本でもアメリカでも、そして今後どの国でも起こり得る。だからこそ、私たちはSNS時代における“言論の正しさ”を、拡散速度ではなく、根拠と検証によって測る視点を持たなければならない。
https://www.thedailybeast.com/gabbard-accuses-obama-of-treason-for-peddling-russia-hoax/
https://www.reuters.com/world/us/justice-department-assess-claims-alleged-weaponization-us-intelligence-community-2025-07-23/
https://www.reuters.com/world/us/trump-accuses-obama-treason-escalating-attacks-over-2016-russia-probe-2025-07-23/