「投票したい政党がないなら、自分たちでゼロからつくる」――参政党が挑む“市民参加型民主主義”の現場
「投票したい政党がないなら、自分たちでゼロからつくる」。
このシンプルなフレーズを、本当の組織原理として貫いているのが参政党です。日本の政治風景で一般的にイメージされる“中央集権型の政党”とは一線を画し、支持者自身が“観客”ではなく“プレイヤー”となって運営を支えている――そんな新しい民主主義の実験が、今まさに展開されています。
上からの政治を壊す――プレイヤーとして参加する参政党の運営スタイル
多くの既存政党では、政策や方針が中央の幹部によって決定され、党員や支持者はその方針に「支持する」か「従う」かの選択肢しかありません。ですが、参政党の運営スタイルはその常識を覆しています。
「みんなで政治に参加する党」「上からではなく下から政策を作る政党」と公式にも掲げられており、党員・支持者が当事者として意思決定に参加できる仕組みが制度的に設計されている。
こうしたスタイルは、政治への信頼が揺らぐ現代において、あらためて“政治の意味”を問い直す、新しい社会運動としての一面も持っています。
“作られた政策”から“作る政策”へ――ワークショップ型政策立案とは?
参政党は、党員や一般市民による「政策立案ワークショップ」や「政策勉強会」を全国で積極的に展開しています。教育、食、医療、経済、外交、安全保障など幅広いテーマで、党員・支持者が自由に意見や課題を出し合い、それを「政策委員」や「ボード」(常任役員会)が集約・最終調整します。
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政党DIY講座や勉強会
全国各地で開催されており、参加者同士が率直に議論。単なる“勉強”に留まらず、自分の課題や地域の問題を直接政策提案として届けることが可能。 -
草の根の声が反映される仕組み
ワークショップで出た意見は、党の意思決定機関で精査され、現実的な政策として具体化されていきます。公式資料には個別事例の記載は限定的ですが、「教育勅語の再評価」や「食の安全」といった政策も、こうした現場発の議論から生まれてきた可能性がある。 -
他党との違い
こうした“草の根型”の政策立案プロセスは、日本の主要政党の中でも非常に珍しく、市民参加型政党としての独自色を強めています。
地方から変える――自律型「草の根ユニット」の台頭
参政党の組織運営でもう一つ特徴的なのは、「地方支部の自律性」。
多くの政党では地方組織は本部の方針や予算に従うだけの存在になりがちですが、参政党では地方支部が独自に政策研究会やワークショップ、街宣活動、資金調達まで主導。
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自立型組織運営の理由
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特定団体・企業の支援を受けないため、自分たちで動くしかない
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「地域から政治を変える」という理念で、中央集権的な意思決定を意図的に回避
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具体的な事例
全国の150名超の地方議員が連携し、独自のプロジェクトを展開。ネット上にも支部ごとの活動報告が日々アップされ、リアルタイムな“ライブ感”も魅力。
「学校給食から日本を変える」――参政党が打ち出した地方起点の政策運動
2024年8月、参政党は地方議員ネットワークを活かし、全国的な政策運動をスタート。その名も「日本の食と子どもを守る給食プロジェクト」。この取り組みは、学校給食という日常的かつ公共性の高い分野を起点に、地域経済・食の安全・教育を包括的に捉え直そうという試み。
発足時には、全国の地方議員133名がこのプロジェクトに名を連ね、政党主導の全国プロジェクトとしては異例の“地方発”であり、特定の選挙対策ではなく、継続的な調査と提言活動を中心に据えている点が特徴的です。
実際、同党は全国125自治体を対象にした実地調査を実施。給食の質、地産地消率、食品添加物の使用状況、調理体制、栄養バランスなど、自治体ごとの実情を把握することから着手しています。この調査には地方議員が直接関与しており、「中央の政治家が机上で語る政策」ではなく、「現場の肌感覚に基づく政策提案」が強調されている点が際立っています。
このプロジェクトが掲げる基本方針は、次の5つの柱。
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子どもの健康と農業を守る食育の実現
食の質は心と身体の健康に直結するという立場から、無関心な“とりあえずの給食”から脱却し、教育の一環としての「食育」を重視する。生産者への敬意を学び、感謝と共に食べるという文化的側面も含めた教育的アプローチである。 -
地産地消と食料自給率の向上
地元の農産物や水産物を積極的に取り入れることにより、地域の一次産業を支えると同時に、食料安全保障の視点も強調。農業・漁業従事者の高齢化や耕作放棄地問題を見据えた長期的課題とも接続されている。 -
化学物質や添加物の削減
子どもの発育に影響を与えうる食品添加物や加工品に対するリスク認識を高め、できる限り無添加・自然素材に近い給食提供を目指す。ここには、農薬や食品添加物に対する参政党の基本的な懐疑的姿勢が反映されている。 -
質の担保と公的負担の再検討
無償化の進展が歓迎される一方で、原材料のコスト圧縮や業者委託の問題により、食の質が下がっているという懸念もある。参政党は、給食の質の維持・向上のためには一定の公的支出を伴うべきだという立場を取っている。 -
不登校児童への昼食支援の整備
給食は学校内だけの制度ではなく、家庭や福祉の問題と密接に関わる。不登校児童にも昼食支援が届くような制度設計を目指すことは、教育の平等という観点からも注目される。
このプロジェクトは、単なる食の問題にとどまらず、地域振興・教育改革・行政の在り方など複数の社会課題を横断する構造を持っている。注目すべきは、その推進主体が地方議員である点だ。中央からトップダウンで押し付ける政策ではなく、「地域の声を吸い上げ、それを実際の施策に落とし込む」というプロセスを意識的に取り入れている。
仮にこうした地方起点の政策活動が他分野でも機能しているならば、参政党は単なる“主張型政党”にとどまらず、「現場と政治をつなぐ構造を持った政党」として、日本政治に新たな風を吹き込んでいる存在と評価できるでしょう。
民主主義の“手触り”を取り戻す――「参加する」ことの意義
選挙が単なる「当選者を決めるイベント」になり、政策が「上から降ってくるもの」となってしまった現状に、参政党は「関わり方を変える」アプローチで挑みます。
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支持者が集会に参加し、自分の意見を直接ぶつける
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政策提案に関わり、場合によっては自ら立候補する
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こうした“能動性”そのものを育てることが、民主主義リテラシーの再教育にもつながる
参政党のこの姿勢は、「政治はサービスではなく“活動”だ」という原点を国民に問い直します。
政策の精度とスピード――課題は“質”と“持続性”
こうしたボトムアップ型の民主主義は理想的ですが、現実にはいくつかの課題も顕在化しています。
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政策の精度や質の問題
専門知見に基づかない主張が批判を受けることも。特に健康・ワクチン・食育など、過度なナチュラル志向や科学的根拠の薄い政策提案への懸念。 -
組織の統一性・ガバナンス
急拡大に伴い、個々の議員や候補者の発言が切り取られて批判される事例が増加(例:「核兵器は安上がり」「非国民」発言)。党の公式見解との区別や、発言管理体制の整備が急務。 -
参加と責任の両立
開かれた参加を続けつつ、「発言の自由」と「組織としての責任」をどう両立するか。今後の成長のカギとなるポイントです。
参政党の挑戦が日本政治にもたらすもの
もし民主主義が「サービス」ではなく「活動」だとしたら――参政党の運営スタイルは、まさに“参加型社会運動”として、その可能性を提示しています。
人々が自分ごととして政治に関わる。たとえそれが他党支持に変わったとしても、「関わり続ける人」が増えれば、社会全体が変わる。その意味で、参政党の挑戦は既存政党にも大きな刺激となり、政治不信の時代に新しい風をもたらしているのです。
そしてその波紋がさらに広がったとき、日本の政治は本当の意味で「変わり始める」かもしれません。