参政党はなぜ生まれたのか

2020年に誕生した「参政党」は、日本の政党史においても異例ともいえるユニークなスタートを切りました。
その最大の特徴は、従来の政党のような大企業や業界団体、宗教団体といった強力な支援母体を持たず、一般市民の「自分たちで日本を変えたい」という思いが原動力となったことです。SNSやインターネット、全国各地での街頭活動を通じて、多様なバックグラウンドを持つ人々が自発的に結集し、「ゼロから政党を作り上げる」というチャレンジが始まりました。

その背景には、「投票したい政党がない」「今の政治に期待できない」といった既存政党への不満や、将来世代への危機感、経済・社会の閉塞状況への強い問題意識があります。
政治的しがらみに縛られず、生活者目線で「日本の未来に本当に必要なことは何か」を問い直す新しい政治運動のうねりが、全国で徐々に支持を拡大していったのです。

党の立ち上げ当初から、クラウドファンディングやSNSライブ配信を駆使した双方向型の情報発信、市民一人ひとりが「自分ごと」として参加できる運動体制が大きな話題となりました。
そのため、従来型の後援会や献金頼みの組織運営とは一線を画す「草の根型」「自律分散型」の新政党として、メディアや識者からも高い注目を集めています。


驚異的なスピードで国政政党へ

参政党は、2022年の参議院選挙で170万票以上を獲得し、初の国会議員(神谷宗幣氏)が誕生しました。
設立からわずか2年で国政政党としての地位を獲得したこの快挙は、多くの有権者に「新しい政治の可能性」を強く印象づける出来事となりました。

さらに、2024年の衆議院選挙でも3名が当選し、参政党の国会議員は衆参あわせて4名に増加。
2025年7月20日に行われた参議院選挙では、比例代表で7,425,053票を獲得(得票率12.5%)、候補者10名中7名が当選。選挙区でも45名中7名が議席を獲得し、合計14名の新たな参議院議員が誕生しました。
これにより、参政党の国会議席数は一気に18名へと拡大し、与野党の枠組みを揺るがす「第三極」として大きな存在感を放っています。

急速に支持基盤を拡大する参政党の勢いは、今後の政局や政策論争においても無視できないものとなっています。
地方議員の数も含めれば、2025年夏時点で所属議員は合計173名に達し、全国に287支部を持つ組織ネットワークを活用して、地域密着型の活動と情報発信を加速させています。


参政党の理念と特徴:「日本人のための政党」を掲げて

参政党は、自らを「日本人のための政党」と明確に位置づけています。その理念は「日本の国益を守り、世界に大調和を生むこと」。
歴史や伝統文化、家族の絆、そして国民の暮らしや命を何よりも大切にし、日本人が安心して豊かに暮らせる社会の実現を目指しています。
教育・経済・医療・農業といった国の根幹をなす分野で、現代日本社会が抱える根本課題を直視し、「理念先行でなく現実的な政策提案を貫く」というスタンスが参政党の大きな特徴です。
現行の「上からのグローバリズム」や既得権優先の体質、過度な外部依存や規制強化に警鐘を鳴らし、「自立した国家と国民」を取り戻すための具体策を提示しています。

教育分野

「暗記型教育からの脱却」「精神性を育む学び」

参政党は、これまでの知識詰め込み型・受験偏重の教育制度を根本から見直す必要性を訴えています。
戦後教育で失われた「日本人としての自信」「誇り」「歴史観」を取り戻すべきだとし、神話や郷土史、偉人の伝記を通じた人格教育、家族愛・郷土愛・国への貢献意識を育てる教育を重視しています。
一人ひとりの個性を大切にし、主体的に学ぶ力やコミュニケーション能力、現場対応力を養うため、フリースクールやホームスクーリング、多様な教育モデルの容認も積極的に推進。
また、AIやICT活用については「子供の脳と体の発達を優先」し、IT教育と子供の健康・発達とのバランスを強調。
少人数学級や現代版師範学校の設置による教員の質と待遇向上も重要な柱となっています。

経済分野

積極的財政政策・「減税」を柱に掲げる

参政党は、従来の「家庭の延長で国家財政を考える」路線を転換し、積極財政への転換を打ち出しています。
国債発行や財政出動によって日本経済を内需主導で活性化し、物価上昇や外圧ではなく「日本人の暮らしと雇用を守る経済政策」を目指します。
特に消費税の減税・段階的廃止や、法人税・所得税の見直しなど、家計や中小企業への負担を軽減し、消費と投資の好循環を生み出す政策を提案しています。
さらに「教育国債」や「子育て支援給付金」の創設など、将来世代への投資を最重要視し、金融政策・財政政策・税制改革を一体的に進める方針です。

医療政策

予防を重視した「食と健康」の見直し・生活の質に焦点

参政党は、「病気になってから治す」から「病気にならない身体づくり」への転換を訴えています。
具体的には、食育や伝統食・和食の推進、農薬・食品添加物の見直し、有害物質の規制強化などを掲げ、日常生活から健康を守る社会環境づくりに力点を置いています。
また、医療費の適正化・予防医療の拡充により、高齢化社会でも持続可能な医療制度を目指しています。
医師や医療従事者の現場の声を重視し、「上から目線の一律規制」ではなく、多様な現場に即した柔軟な制度運用を提案しています。

移民と外国投資政策

過度な依存を避ける姿勢・地域や国民の安全確保、自主性と調和を重視

参政党は、外国人労働者や移民、海外投資への「過度な依存」を明確に避ける方針を打ち出しています。
外国人受け入れは、地域社会の秩序や日本人の生活環境が脅かされないよう、「秩序ある人数・比率制限」「帰化・永住権の厳格化」「土地・不動産取得規制」「社会保障の見直し」など多層的な歯止め策を提案。
安易な外国人参政権や生活保護支給にも明確に反対し、「日本人のためのリソースを確保する」「安全・安心な暮らしを守る」ことを政策の出発点としています。
同時に、海外資本による水源・農地・戦略拠点の買収防止にも注力し、地域経済や雇用の自立、国民の主権と安全保障を守ることに重きを置いています。


綱領に見る参政党の世界観と国家像

参政党の綱領は、日本の歴史的伝統と現代社会の調和を重視し、独自の価値観と未来へのビジョンを明確に打ち出しています。単なる政策目標にとどまらず、「どのような国を目指すか」という国家観や世界観が鮮明に示されている点が特徴です。

  • 先人の叡智を活かし、天皇を中心に一つにまとまる平和な国をつくる
    参政党は、日本の歴史を通じて受け継がれてきた精神文化や、天皇を日本の象徴とする国体のあり方を尊重しています。
    国家の分断や価値観の混乱が進む時代だからこそ、伝統と絆を大切にし、先人が積み重ねてきた知恵を今の時代に活かすことが重要だと考えています。天皇を中心とした一体感と調和の精神を基礎とすることで、内外の混乱や対立を乗り越え、平和な国づくりを目指すという立場です。

  • 日本国の自立と繁栄を追求し、人類の発展に寄与する
    参政党は、日本が他国に依存せず、自らの力で国を支え、次世代につなげていく自立した国家であることを重視しています。
    経済・教育・安全保障などあらゆる分野で日本独自の知恵や強みを発揮し、世界と対等な立場で協力し合う姿勢を打ち出しています。
    その繁栄は日本人だけでなく、世界全体の発展や平和に貢献するというグローバルな視点も忘れていません。国際社会の中で積極的に役割を果たし、「調和と共生」の精神を世界に広げていくことが目標です。

  • 日本の精神と伝統を活かし、調和社会のモデルをつくる
    参政党は、物質的な豊かさや経済成長だけでなく、精神的な充実や人々の絆、自然や社会との調和を重んじる社会を志向しています。
    古来より日本人が大切にしてきた「和の心」「利他の精神」「自然との共生」を現代社会の基盤とし、家庭や地域、職場などあらゆる場面での調和と協調を重視します。
    日本が世界に誇れる調和社会のモデルケースとなることで、分断や格差、対立が深まる世界に新しい希望と方向性を示したい――それが参政党の掲げる未来像です。

これらの綱領からは、日本の伝統と現代の英知を結集し、国家の独立・繁栄・調和を追求する保守的かつ創造的な国家像が明確にうかがえます。単なる「保守」や「改革」に留まらず、過去と未来をつなぎ、世界の調和と発展にも寄与しようとする“現代日本らしい独自のビジョン”が参政党の大きな特徴です。


有権者の支持基盤と今後の動向

参政党の支持基盤は、従来の既存政党や日本の政治そのものに閉塞感や不信感を抱いていた有権者層を中心に、急速に広がっています。
近年の選挙分析や各種世論調査によれば、とくに無党派層や20〜40代の若年層の支持を集めているのが大きな特徴です。
コロナ禍以降の社会不安や大手メディアへの不信感の高まり、インターネットやSNSによる政治参加の裾野拡大といった時代背景も追い風となり、「自分たちの手で社会を変えたい」という新しい市民運動的な熱量が参政党の運動を後押ししています。

党の公式発表によれば、所属議員の平均年齢は46.5歳と、主要政党の中でも比較的若い世代が中心。
男女比についても男性が約3分の2を占めるものの、女性議員や若手の政治参加も増加傾向にあり、党内の多様性が徐々に広がっています。
また党員・サポーターの登録者数は2024年夏時点で15万人を超え、地方自治体での当選者数も年々増加しています。

参政党は単なる政党というよりも、既存の組織型政党とは一線を画す「市民運動に近い組織」として知られています。
SNS(X、YouTube、Instagram等)やリアルな街頭演説、全国規模の講演・勉強会、草の根の対話活動を通じて、ダイレクトな情報発信と市民一人ひとりとの対話を重視している点が特徴です。
選挙活動や政策づくりも「市民ボランティア」の参加に支えられており、特定の業界団体や大企業、伝統的な支援組織・スポンサーに依存しない独立型の運営スタイルを貫いています。

今後の動向としては、SNSでの拡散力や「対話と共感」のリアルな運動力を強みに、既成政党には届かない層――特に政治的無関心層や新しい世代――の掘り起こしが進むことが予想されます。
2025年の参院選や各地の地方選挙でも若年層や主婦層、現役世代の新たな支持拡大が注目されており、「ボトムアップ型民主主義」を体現する新しい時代の政治勢力としてその存在感を高めています。


まとめ:参政党は既存の枠組みに揺さぶりをかける新勢力

参政党の台頭は、戦後長く続いた日本の政党システムや政治構造に対して“硬直性へのカウンター”として機能しています。
既成政党への不信や「変化が起きない」という閉塞感に対し、参政党は新しい価値観と草の根型の運動力を持ち込み、「自分たちの未来は自分たちでつくる」という市民主体の意識改革を日本各地で広げています。
特に、従来は政治参加に消極的だった無党派層や若年層の間で、「自分たちも社会を変えられるのではないか」という前向きな空気が醸成されているのは大きな変化です。

一方で、参政党はまだ発展途上の勢力であり、政策の具体的実現力や持続可能な運営体制づくりといった課題にも直面しています。
支持層の広がりやボランティア参加の活発さは目立つものの、議会内での政策推進力や法案成立の実績、組織のガバナンス強化など、今後の政治的成長に不可欠なポイントも数多く存在します。

それでもなお、参政党の存在そのものが日本の政治風土に少なからぬ刺激を与えているのは間違いありません。
SNSや街頭演説といった新しいメディア戦略や、ボトムアップ型の運動論は既存政党にも影響を与えつつあり、今後の政界再編や世代交代の流れに大きなインパクトを与えることが予想されます。
「多様な価値観や声が政治の現場に届く社会」を実現するために、参政党が果たす役割は今後も無視できないものとなっていくでしょう。